たよ山とんぼ
・山をまへに流れくる水へおしつこする
・昼顔も私も濡れて涼しうなつた
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行程五里、所得は十六銭と六合。
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行乞について
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八月廿九日[#「八月廿九日」に二重傍線]
四時には二人とも起きた。
敬君はまた草取、私は風呂焚だ。
朝湯朝酒はゼイタクすぎるうれしさだつた(私共の酒量も減つたものである、二人で三度飲んで、やうやく一升罎[#「罎」に「マヽ」の注記]が空になつたぐらゐである)。
御飯を炊きすぎたといふので、敬君が大きなおむすび[#「おむすび」に傍点]をこしらへてくれた。
七時半出立、秋吉をへて伊佐へ。
途上しば/\休んだ、朝酒がこたえたのである。
或る山寺で例のおむすびを味つた、親友の心持がしみ/″\と骨身にしみた、その山寺の老房守さんもしんせつだつた、わざ/\本堂の障子をあけはなつて、私を涼しく昼寝させて下さつた。
午後二時から四時まで伊佐行乞。
行程五里、所得はいつもの通り。
この宿――豊後屋といふ――はやつぱりよかつた、同宿者のおしやべりには閉口したけれど、一室一燈一張のよろしさだつた、便所のきたないのはぜひもない。
隣家のラヂオを蚊帳の中に寝ころんで聴く、三十三間堂柳の佐和利、泣くわ/\。
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・こゝで寝るとする草の実のこぼれる
よい娘さんがゐる村のデパートで
・萩さいてそこからなんとうまい水
・山寺のしづけさは青栗もおちたまゝ
おべんたうたべてゐるまうへつく/\ぼうし
・若竹伸びきつて涼し
地べたへべつたりはらばうた犬へ西日
・旅のつかれもほつかりと夕月
・蚊帳のなかまで月かげの旅にゐる
月が山の端に安宿のこうろぎ
・旅も月夜の、おとなりのラヂオが泣いてゐる
敬治居出立
・からりと晴れた法衣で出かける
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八月三十日[#「八月三十日」に二重傍線]
寝すごした、それほどよく眠れたのである。
朝のうちは伊佐行乞、それから麦川へ、途中あまりだるいから村の鎮守の宮で昼寝、涼しい社殿だつたが、村の悪童共の集合所でもあつたので騒々しかつた、それでも二時間ぐらゐは寝たらう。
おひるは報謝のお菓子二きれですます。
二時から四時まで麦川行乞、西市へ越すつもりで山路にかゝつたが、平原といふところで宿を見つけたので泊つた、豊田屋、
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