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・もう明けさうな窓あけて青葉
・蛙がうたうてゐる朝酒がある
 肉が煮えるにほひの、赤子が泣く
 めつきり夏めいて机の上の蟻も
・ながい毛がしらが
 もらうてきてうゑてをくよいくもり
  昨日の所得         昨日今日の買物
米 一升一合        一金十六銭 酒二合   一金弐銭 切手一枚
銭 十七銭         一金六銭  醤油二合  一金五銭 湯札弐枚
 換算して一金四十一銭也。 一金九銭  ハガキ六枚 一金四銭 胡瓜苗四本
              (嚢中完全に無一文なり)
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 六月二日[#「六月二日」に二重傍線]

くもり、北九州への旅立を見合せる。
樹明君が朝早く来て、飯をたべさせてくれといふ、そしてたつた一杯だけたべた、頭髪を刈り[#「り」に「マヽ」の注記]てもらふ、さつぱりした、ふたりが縁側で話してゐるところへ、やつてきた人がある、――中井吉之介さんだつた、インテリルンペンである君の話は興味ふかく尽くるところがなかつた、ムジナの話、フクロウの話、近代女性の話、マムシの話、アダリンの話、ボクチンの話、等、等、等。
私もルンペン生活をやつてきたけれど、君のそれは本格的だ。
敬坊が樹明君に托してくれた壱円で、石油を買ひ、煙草を買ひ、焼酎を飲み湯に入つた。
夜は酒と句とヨタとで賑つた、主賓吉之介、客賓樹明、不二[#「二」に「マヽ」の注記]生、主人公は山頭火、たゞし酒も魚も樹明君の贈物、酒もうまかつたが話もおもしろかつた。
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 明日は死なう青葉をあるきつゞける(吉之介さんに代つて)
・地べたにすわり食べてるわ
・はれ/″\酔うて草が青い
・石垣の日向の蛇のつるみつつ
・つきあたれば枯れてゐる木
・さみしいけれども馬齢[#「齢」に「マヽ」の注記]薯咲いて
[#ここで字下げ終わり]

 六月三日[#「六月三日」に二重傍線]

徹夜だつたから早い、五時にはもう支度が出来た、あまり早うて気の毒だつたけれど、ルンチヤンを起す、六時のサイレンが鳴る前に二人は出立した、彼は故郷鳥取へ、私は北九州へ。

 六月三日[#「六月三日」に二重傍線]  から
          行乞記
 六月十一日[#「六月十一日」に二重傍線] まで



底本:「山頭火全集 第五巻」春陽堂書店
   1986(昭和61)年1
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