づい字[#「まづい字」に傍点]だらう、まづいのはいゝ、何といふいやしい字[#「いやしい字」に傍点]だらう。
うれしいこゝろがしづむ[#「うれしいこゝろがしづむ」に傍点]、晴れて曇る!
八月十五日
何といふ苦しい立場だらう、仏に対して、友に対して、私自身に対して。
やつぱりムリ[#「ムリ」に白三角傍点]があるのだ、そのムリ[#「ムリ」に白三角傍点]をとりのぞけば壊滅だ、あゝ、ムリ[#「ムリ」に白三角傍点]か、ムリ[#「ムリ」に白三角傍点]か、そのムリは私のすべてをつらぬいてながれてゐるのだ、造庵がムリ[#「ムリ」に白三角傍点]なのぢやない、生存そのものがムリ[#「ムリ」に白三角傍点]なのだ。
茗荷の子を食べる、かなしいうまさだつた。
八月十六日
いよ/\秋だ、友はまだ来てくれない、私はいはゆる『昏沈』の状態に陥りつゝあるやうだ。
待つてゐる物が――それがなければ造庵にとりかゝれない物が来ない。
今日もやつぱり待ちぼけだつたのか。
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・虫が鳴く一人になりきつた
・けさも青柿一つ落ちてゐて
[#ここで字下げ終わり]
八月十七日
やつぱりいけない、捨鉢気分で飲んだ、その酒の苦さ、そしてその酔の下らなさ。
小郡から電話がかゝる、Jさんから、Kさんから、――来る、来るといつて来なかつた。
また飲む、かういふ酒しか飲めないとは悲しい宿命[#「悲しい宿命」に傍点]である。
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・あてもない空からころげてきた木の実
[#ここで字下げ終わり]
此句には多少の自信がある、それは断じて自惚ぢやない、あてもない[#「あてもない」に傍線]に難がないことはあるまいけれど(あてもない[#「あてもない」に傍線]は何処まで行く、何処へ行かう、何処へも行けないのに行かなければならない、といつたやうな複雑な意味を含んでゐるのである)。
八月十八日
近来にない動揺であり、そしてそれだけ深い反省だつた、生死、生死、生死、生死と転々した。
アルコールよりカルモチンへ、どうやらかういふやうに転向しつゝあるやうである、気分の上でなしに、肉体に於て。
待つ物来らず、ほんとうに緑平老に対してすまない、誰に対してもすまない。
八月十九日
何事も因縁時節、いら/\せずに、ぢつとして待つてをれ、さうするより外ない私ではないか。
入浴、剃髪、しんみりとした気持になつて隣室の話をきく、あゝ母性愛、母といふものがどんなに子といふものを愛するかを実証する話だ、彼等(一人の母と三人の子と)は動物に近いほどの愛着を体感しつゝあるのだ。……
父としての私は、あゝ、私は一度でも父らしく振舞つたことがあるか、私はほんとうにすまなく思ふ、私はすまない、すまないと思ひつゝ、もう一生を終らうとしてゐるのだ。……
八月廿日
やつと心気一転、秋空一碧。
初めてつく/\ぼうしをきいた、つく/\ぼうし、つく/\ぼうし、こひしいなあ。
いよ/\身心一新だ、くよ/\するな、けち/\するな、たゞひとすぢをすゝめ。
八月廿一日
ほんとうに秋だ、何よりも肌ざわりの秋。
正さん(此宿の二男)と飲んだ、お嫁さんのお酌で、気持よく飲みあつた、ちと新家庭を妨げなかつたでもないらしい。
売家があるといふので問合にいつた。
八月廿二日
今日も家の事で胸いつぱいだ、売家が二つ三つある、その一つが都合よければ、其中庵も案外早く、そして安く出来るだらう、うれしいことである。
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逢うて別れる月が出た
[#ここで字下げ終わり]
八月廿三日
何となく穏やかでない天候だつたが、それが此頃としては当然だが、私は落ちついて読書した。
旅がなつかしくもある、秋風が吹きはじめると、風狂の心、片雲の思が起つてくる、……しかし、私は落ちついてゐる、もう落ちついてもよい年である。
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・咲いてしやくなぎのはな(改作)
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此句は悪くないと思ふが、どうか知ら。
八月廿四日
晴れてきた、うれしい電話がかゝつてきた、――いよ/\敬坊が今日やつてくるといふのである。
駅まで出迎に行く、一時間がとても長かつた、やあ、やあ、やあ、やあ、そして。――
友はなつかしい、旧友はとてもなつかしい、飲んだ、話した、酒もかういふ酒がほんとうにうまいのである。
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・家をめぐる青田風よう出来てゐる
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八月廿五日
朝の散歩、そして朝の対酌、いゝですね!
彼は帰る、私に小遣までくれて帰る、逢へば別れるのだ、逢うてうれしや別れのつらさだ、早く、一刻も早く、奥さんのふところに、子供の手にかへれ。
自動車――バスはいやなものだよ、ゆれるばかりで、さうだ、ゆれるばかりだ。
朝の散歩で摘んでき
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