の楽園らしい、佐賀市からは、そのために、電車が通うてゐる、もう一度来てゆつくり遊びたいと思うた。
宿は高い割合に良くなかつた。
春日墓所(閑叟公の墓所)は水のよいところ、水の音も水の味もうれしかつた。
三月十一日[#「三月十一日」に二重傍線] 晴、小城町行乞、宿は同前。
ずゐぶん辛抱強く行乞した、飴豆を貰つて食べる、焼芋を貰つて食べる、餅を貰つて食べる、そして酒は。……
三日月といふ地名はおもしろい。
此宿はよい、木賃二十五銭では勿体ない。
同宿五人、みんなお遍路さんだ、彼等には話題がない、宿のよしあし、貰の多少ば[#「ば」に「マヽ」の注記]りを朝から晩まで、くりかへしくりかへし話しつゞけてゐる。
三月十一日[#「三月十一日」に二重傍線] また雨、ほんに世間師泣かせの雨だ、滞在。
札所清水山へ拝登、山もよく瀧もよかつた(珠簾瀧)、建物と坊主とはよくなかつたが。
終日与太話、うるさくて何も出来ない、私も詮方なしに仲間入して暮らす。
名物小城羊羮、頗る美人のおかみさんのゐる店があつて、羊羮よりもいゝさうな!
三月十三日[#「三月十三日」に二重傍線] 曇、晴れて風が強くなつた、行程六里、途中行乞、再び武雄町泊、竹屋といふ新宿(三〇・下)
同宿は若い誓願寺さん、感情家らしかつた、法華宗にはふさはしいものがあつた。
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・ここにおちつき草萌ゆる(改作)
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三月十四日[#「三月十四日」に二重傍線] 曇、時々寒い雨が降つた、行程五里、また好きな嬉野温泉、筑後屋、おちついた宿だ(三〇・上)
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此宿の主人は顔役だ、話せる人物である。
友に近状を述べて、――
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嬉野はうれしいところです、湯どころ茶どころ、孤独の旅人が草鞋をぬぐによいところです、私も出来ることなら、こんなところに落ちつきたいと思ひます、云々。
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楽湯――遊於湯――何物にも囚へられないで悠々と手足を伸ばした気分。
とにかく、入湯は趣味だ、身心の保養だ。
三月十五日[#「三月十五日」に二重傍線] 十六日 十七日 十八日 滞在、よい湯よい宿。
朝湯朝酒勿体ないなあ。
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駐在所の花も真ッ盛り(追加)
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・さみしい
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