うね/\ぐる/\と伸びてゆくのである、だらけたからだにはつらかつたが、悪くはなかつた、しかしずゐぶん労[#「労」に「マヽ」の注記]れた、江ノ浦にも泊らないで、此浦まで歩いて来た、有喜の湊屋(三〇・中)。
有喜近い早見といふ高台からの遠望はよかつた、美しさと気高さとを兼ね持つてゐた、千々岩[#「岩」に「マヽ」の注記]灘を隔てゝ雲仙をまともに見遙かすのである。……
江の浦から早見まで、よい道連れを与へられた、村の有志者とでもいふ部類の人柄らしかつた。
あまり草臥れたので一杯やつた、この一杯はまことに効果百パーセントだつた。
渇いて渇いて、もう歩けなくなつたとき、水の音、水が筧から流れ落ちてゐる、飲む、飲む、腹いつぱい飲む、うまい、うまい、甘露とはまさにこの水だ。
このあたりは陰暦の正月三日、お正月気分が随処に随見せられる、晴着をきて遊ぶ男、女、おばあさん、こども。
長崎から坂を登つて来て登り尽すと、日見墜道がある、それを通り抜けると、すぐ左側の小高い場所に去来の芒塚といふのがある。
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芒塚 去来
君が手もまじるなるべし花薄
・けさはおわかれの卵をすゝる
・トンネルをぬけるより塚があつた(去来芒塚)
・もう転ぶまい道のたんぽゝ
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同宿は遍路坊さん、声よくて程がない、近所の不良老婦人が寄つてきて騒ぎ□□声色身振をする、何しろ八里は十分に歩いたのだら[#「ら」に「マヽ」の注記]、労れた/\睡い/\。
二月七日[#「二月七日」に二重傍線] (追加)晴、肥ノ岬(脇岬)へ、発動船、徒歩。……
第二十六番の札所の観音寺へ拝登、堂塔は悪くないが、情景はよろしくない、自然はうつくしいが人間が醜いのだ、今日の記は別に書く、今日の句としては、
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・明けてくる山の灯の消えてゆく
・大海を汲みあげては洗ふ(船中)
まへにうしろに海見える草で寝そべる
岩にならんでおべんたうののこりをひろげる
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二月九日[#「二月九日」に二重傍線] 風雨、とても動けないから休養、宿は同前。
お天気がドマグレたから人間もドマグレた、朝からひつかけて与太話に時間をつぶした。
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二月十日[#「二月十日」に二重傍線] まだ風雨がつゞいてゐるけれど出立する、途中|千々石《
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