築造したといふ舞鶴園がある、こぢんまりとした気持のよいお庭だつた。
今日は市議選挙の日、そして第六十議会解散の日、市街至るところ号外の鈴が響く。
唐津といふ街は狭くて長い街だ。
おいしい夕飯だつた、ヌタがおいしかつた、酒のおいしさは書き添へるまでもあるまい。
この宿はしづかできれいであかるくていゝ、おそくまで読書した、久しぶりにおちついて読んだ訳である。
毎日、彼等から幾度か不快を与へられる、恐らくは私も同時に彼等に不快を与へるのだらう――それは何故か――彼等の生活に矛盾があるやうに、私の生活に矛盾があるからだ、私としては、当面の私としては、供養を受ける資格なくして供養を受ける、――これが第一の矛盾だ!――酒は涙か溜息か、――たしかに溜息だよ。

 一月廿二日[#「一月廿二日」に二重傍線] 晴、あたゝかい、行程一里、佐志、浜屋(二五・上)

誰もが予想した雨が青空となつた、とにかくお天気ならば世間師は助かる、同宿のお誓願寺さんと別れて南無観世音菩薩。……
こゝで泊る、唐津市外、松浦潟の一部である、このつぎは唐房――此地名は意味ふかい――それから、湊へ、呼子町へ、可[#「可」に「マヽ」の注記]部町へ、名護屋へ。
唐津行乞のついでに、浄泰寺の安田作兵衛を弔ふ、感じはよろしくない、坊主の堕落だ。
唐津局で留置の郵便物をうけとる、緑平老、酒壺洞君の厚情に感激する、私は――旅の山頭火は――友情によつて、友情のみによつて生きてゐる。
行乞流転してゐるうちに、よく普及してゐるのは、いひかへれば、よく行きわたつてゐるのは、――自転車[#「自転車」に傍点]、ゴム靴[#「ゴム靴」に傍点](地下足袋をふくむ)そして新聞紙[#「新聞紙」に傍点]、新聞紙の努力はすばらしい。
松浦潟の一角で泊つた、そして見て歩いた、悪くはないが、何だかうるさい。
此宿はよい、私が旅人としての第六感もずゐぶん鋭くなつたらしい、行乞六感!
よい宿だと喜んでゐたら、妙な男が飛び込んで来て、折角の気分をメチヤ/\にしてしまつた、あんまりうるさいから奴[#「奴」に「マヽ」の注記]鳴つてやつたら、だいぶおとなしくなつた。
緑平老の肝入、井師の深切、俳友諸君の厚情によつて、山頭火第一句集が出来上るらしい、それによつて山頭火も立願寺あたりに草庵を結ぶことが出来るだらう、そして行乞によつて米代を、三八九によつて酒代を与へられる
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