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   門司埠頭凱旋兵
・生きて還つてきた空の飛行機低う
    □
・芭蕉二株青い雨(追加)
 星がまたたく草に寝る
    □
・かたい手を握りしめる
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 五月廿九日[#「五月廿九日」に二重傍線] 晴、電車と汽車で緑平居へ、葉ざくらの宿。

朝から四有三居を襲うて饗応を強要した。
緑平老はあまりに温かい、そつけないだけそれだけしんせつだ、友の中の友である。
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水を渡つて女買ひに行く(添加)
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夕方、連れ立つて散歩する、ボタ山のこゝそこから煙が出てゐる、湯が流れてくる、まるで火山の感じである、荒涼落漠の気にうたれる。
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・ボタ山へ月見草咲きつゞき
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 五月三十日[#「五月三十日」に二重傍線] 晴、行程五里、高津尾といふ山村、祝出屋(三〇・中)

早く起きて別れる、そして川棚へ急ぐ、労れて途中で泊る、この宿はほんたうにしづかだ、山の宿の空気を満喫する。
例の後援会の成績はあまり良くないけれど、それでも草庵だけは結べさうなので、いよ/\川棚温泉に落ちつくことになつた、緑平老の諒解を得たから、一日も早く土地を借りてバラツクを建てなければならない、フレイ、フレイ、サントウカ、バンザアイ!
近来とかく身心不調、酒も苦くなつた、――覚醒せずにはゐられない今が来たのである。
しつかり生きなければならない、嘘の多い、悔の断えない生き方にはもう堪へられなくなつた。
酒をつつしまなければならない、酒を飲む[#「飲む」に傍点]ことから酒を味ふ[#「味ふ」に傍点]方へ向はなければならない、ほんたうにうまい酒ありがたい酒[#「うまい酒ありがたい酒」に傍点]をいたゞかなければならないのである。
伊東君に手紙をだして、私の衷情を吐露しつゝ、お互に真実をつかまうと誓約した。
少し飲んでよく寝た。
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 山の家のラヂオこんがらがつたまゝ
・こゝにも畑があつて葱坊主(再録)
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五月三十一日[#「五月三十一日」に二重傍線] 曇が雨となり風となつた、小倉まで三里、下関から風雨の四里を吉見まで歩いた、関門通有のシケで、全身びしよぬれになつて、やつと宿についた、石風呂があるの
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