が、私には可もなく不可もなし、どちらかといへばよい方である、何となくゆつくりしてゐておちついてゐられるから。
また主人公も妻君も上手はないが好人物だ、内証もよいらしく、小鳥三十羽ばかり飼うてゐる、子がないせいでもあらうけれど。
坊主枕はよかつた、こんな些事でもうれしくて旅情を紛らすことができる、汽車の響はよくない、それを見るのは尚ほいけない、こゝからK市へは近いから、一円五十銭の三時間で帰れば帰られる、感情が多少動揺しても無理はなからうぢやないか。
夜もすがら水声が聞える、曽良の句に、夜もすがら秋風きくや裏の山、といふのがあつたやうに覚えてゐるが、それに同じて
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夜をこめて水が流れる秋の宿
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同宿の老人はたしかに変人奇人に違ひない、金持ださうなが、見すぼらしい風采で、いつも酒を飲み本を読んでゐる。
十一月七日[#「十一月七日」に二重傍線] 曇、夕方から雨、竹田町行乞、宿は同前。
雨かと思つてゐたのに案外のお天気である、しかし雨が近いことは疑はなかつた、果して曇が寒い雨となつた。
九時から四時まで行乞、昨年と大差はないが、少しは少ないが、米が安いのは的確にこたえる、やうやく地下足袋を買ふことができた、白足袋に草鞋が好きだけれど、雨天には破れ易くてハネがあがつて困るから、感じのよいわるいをいつてはゐられない。
こゝの唐辛の砂糖煮、味噌汁、煎茶はうまい、九州ほど茶を飲むところは稀だが、私も茶飲み連中の一人となつてしまつた。
今日の行乞相も及第はたしかだ、行乞相がいゝとかわるいとかいふのは行乞者が被行乞者に勝つか負けるかによる、いひかへれば、心が境のために動かされるか動かされる[#「る」に「マヽ」の注記]かによる、随処為主の心境に近いか遠いかによる(その心境になりきることは到底望めない、凡夫のあさましさだ、同時に凡夫のよさだ、ともいへやう)。
町の酒屋で二杯ひつかけたので、ほろ/\酔うた、微酔の気地[#「地」に「マヽ」の注記]は何ともいへない、しかしとかく乱酔泥酔になつて困る、もつともさうなるだけ酒がうまいのだが!
今夜も夜もすがら水音がたえない、階下は何だか人声がうるさい、雨声はトタン屋根をうつてもわるくない、――人間に対すれば憎愛がおこる、自然に向へばゆう/\かん/\おだやかに生きてをれる。
月! 芋明月も豆明月も過ぎ
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