て)、それでよいではないか、それで安んじてゐるやうでなければ行乞流浪の旅がつゞけられるものぢやない。
この宿はひろ/″\として安易な気持でゐられるのがよい、電燈の都合がよろしいと申分ないが。
昨日今日すつかり音信の負債を果したので軽い気になつた、ゲルトの負債も返せると大喜びなのだけれど、その方は当分、或は永久に見込みないらしい。
句もなく苦もなかつた、銭もなく慾もなかつた、かういふ一日が時になければやりきれない。
十月十四日[#「十月十四日」に二重傍線] 晴、都城市街行乞、宿は同前。
八時半から三時半まで行乞、この行乞のあさましさを知れ、そこには昨日休んだからといふ考へがある、明日は降るかも知れないといふ心配がある、――こんなことで何が行乞だ、行脚と旅行の目的欄に記したが(宿帳に)、恥づかしくはないか。
どこの庭にも咲いてゐる赤い花、それはサルピ[#「ピ」に「マヽ」の注記]ヤといふのださうな、何とかふさはしい和名がありさうなものだ、花そのものが日本的だから。
同宿の薬屋さん、とう/\アクセントで鮮人といふことが解つた、どんなに内地化したつて鮮人は遂に鮮人だつた、こに[#「こに」に「マヽ」の注記]も民族的問題が提供されてゐる。
例の饒舌僧とまた同宿した、知つたかぶりといふ言葉は彼のために出来たかと思はれるほどだ、人間はいゝけれど舌が長すぎる、下らない本を読んで、しかもそれを覚えすぎてゐる、『知る』といふことの価値が解らなければ宗教は解らない、といつてゐる私自身も知解情量の亜流だが。
都城で、嫌でも眼につくのは、材木と売春婦とである、製材所があれば料理屋がある、木屑とスベタとがうよ/\してゐる、それもよしあし、よろしくあしく、あしくよろしく。
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皮膚が荒れてくる旅をつゞけてゐる
すこしばかり買物もして旅の夫婦は
石刻む音のしたしくて石刻む
朝寒に旅焼けの顔をならべて
・片輪同志で仲よい夫婦の旅
・ざくりざくり稲刈るのみの
・秋晴れの砂をふむよりくづれて
鶏《トリ》を叱る声もうそ寒う着いた
いそがしう飯たべて子を負うてまた野良へ
・木葉落ちる声のひととき
・貧乏の子沢山の朝から泣いてゐる
・それでよろしい落葉を掃く
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十月十五日[#「十月十五日」に二重傍線] 晴、行程四里、有水、山村屋(四〇・中・下)
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