まりいろ/\の事が考へ出されるから。
九月十三日[#「九月十三日」に二重傍線] 曇、時雨、佐敷町、川端屋(四〇・上)
八時出発、二見まで歩く、一里ばかり、九時の汽車で佐敷へ、三時間行乞、やつと食べて泊るだけいたゞいた。
此宿もよい、爺さん婆さん息子さんみんな深切だつた。
夜は早く寝る、脚気が悪くて何をする元気もない。
九月十四日[#「九月十四日」に二重傍線] 晴、朝夕の涼しさ、日中の暑さ、人吉町、宮川屋(三五・上)
球磨川づたひに五里歩いた、水も山もうつくしかつた、筧の水を何杯飲んだことだらう。
一勝地で泊るつもりだつたが、汽車でこゝまで来た、やつぱりさみしい、さみしい。
郵便局で留置の書信七通受取る、友の温情は何物よりも嬉しい、読んでゐるうちにほろりとする。
行乞相があまりよくない、句も出来ない、そして追憶が乱れ雲のやうに胸中を右往左往して困る。……
一刻も早くアルコールとカルモチンとを揚棄しなければならない、アルコールでカモフラージした私はしみ/″\嫌になつた、アルコールの仮面を離れては存在しえないやうな私ならばさつそくカルモチンを二百瓦飲め(先日はゲルトがなくて百瓦しか飲めなくて死にそこなつた、とんだ生恥を晒したことだ!)。
[#ここから2字下げ]
呪うべき句を三つ四つ
蝉しぐれ死に場所をさがしてゐるのか
・青葉に寝ころぶや死を感じつゝ
毒薬をふところにして天の川
・しづけさは死ぬるばかりの水が流れて
[#ここで字下げ終わり]
熊本を出発するとき、これまでの日記や手記はすべて焼き捨てゝしまつたが、記憶に残つた句を整理した、即ち、
[#ここから2字下げ]
・けふのみちのたんぽゝ咲いた
・嵐の中の墓がある
炭坑街大きな雪が降りだした
□
・朝は涼しい草鞋踏みしめて
炎天の熊本よさらば
・蓑虫も涼しい風に吹かれをり
熊が手をあげてゐる藷の一切れだ(動物園)
・あの雲がおとした雨か濡れてゐる
・さうろうとして水をさがすや蜩に
・岩かげまさしく水が湧いてゐる
・こゝで泊らうつく/\ぼうし
・寝ころべば露草だつた
・ゆふべひそけくラヂオが物を思はせる
・炎天の下を何処へ行く
・壁をまともに何考へてゐた
・大地したしう投げだして手を足を
・雲かげふかい水底の顔をのぞく
・旅のいくにち赤い尿して
・さゝげまつる鉄鉢の日ざかり
[#ここで字下
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