こぼれさうな寒い顔で答へる
[#ここで字下げ終わり]
十二月四日[#「十二月四日」に二重傍線] 晴、行程六里、汽車でも六里、笹栗町、新屋(三〇・下)
冷たいと思つたら、霜が真白だ、霜消し酒をひつかけて別れる、引き留められるまゝに次郎居四泊はなんぼなんでも長すぎた。
十一時の汽車に乗る、乗車券まで買つて貰つてほんたうにすまないと思ふ、そればかりぢやない、今日は行乞なんかしないで、のんきに歩いて泊りなさいといつて、ドヤ銭とキス代まで頂戴した、――かういふ場合、私は私自身の矛盾を考へずにはゐられない、次郎さんよ、幸福であつて下さい、あんたはどんなに幸福であつても幸福すぎることはない、それだのに実際はどうだ、次郎さんは商売の調子がよくないのである、日々の生活も豊かでないのである。
飯塚へ着いたらもう十二時近かつた、濁酒一杯の元気で八木山峠を越える、そして七曲りの紅葉谷へ下りる(笹栗新四国八十八ヶ所、第三十四番の薬師堂)、このあたりの山と水とは悪くない。
途中、村の老人連の放蕩話は面白かつた、博多柳町で、仕切一円、一円六十銭といつたやうな昔がたり、また途上の狂女は嫌だつた、若いだけ、すつかり調子外れでないだけ気味悪かつた。
此宿はよくない、お客さんは私一人だ、気儘に読んだり書いたりをすることが出来たのは勿怪の幸だつたが。
[#ここから2字下げ]
別れの畳まで朝日さしこむ
別れともない猫がもつれる
また逢ふまでの霜をふみつゝ
霜の消えないうちに立つ
・もういちど濃いお茶飲んで別れませう
二三歩ついてきてさようなら
・ちつとも雲のない空仰ぎつゝ別れた
廃坑の霜がぬくうとけてゆく
・みんな活きてゆく音たてゝゐる
・古い墓に新らしい墓のかゞやかさ
朝日まぶしう枯山たかく
・いたづらに真昼の火が燃えてゐる
・曲つて旧道のしづけさをのぼる
耕す下を掘つてるか
・これでも生活《くらし》のお経あげてゐるのか
そこら音ある水をたづねる
秋風の石を祀つて拝んでゐる(追加)
[#ここで字下げ終わり]
さみしいなあ――ひとりは好きだけれど、ひとに[#「とに」に「マヽ」の注記]なるとやつぱりさみしい、わがまゝな人間、わがまゝな私であるわい。
十二月五日[#「十二月五日」に二重傍線] 曇、時雨、行程三里、福岡市、句会、酒壺洞居。
お天気も悪いし、気分もよくないので、一路ま
前へ
次へ
全87ページ中74ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング