つた、かなり冷たかつた、それだけうらゝかな日だつた、うらゝかすぎる一日だつた、ゆつくり伊田まで歩いてゆく、そして三時間ばかり行乞、一週間ぶりの行乞だ、行乞しなくてはならない自分だから、やつぱり毎日かゝさず行乞するのが本当だ。
行乞は雲のゆく如く、水の流れるやうでなければならない、ちよつとでも滞つたら、すぐ紊れてしまふ、与へられるまゝで生きる、木の葉の散るやうに、風の吹くやうに、縁があればとゞまり縁がなければ去る、そこまで到達しなければ何の行乞ぞやである、やつぱり歩々到着だ。
伊田で、八百屋の店頭に松茸が少しばかり並べてあつた、それを見たばかりで私はうれしかつた、松茸を見なかつた食べなかつた物足りなさが紛らされた(その松茸は貧弱なものだつたけれど)。
糒川の草原にすわつて、笠の手入れをしたり法衣のほころびを縫ふたりする、ついでに虱狩もした、香春三山がしつとりと水に映つてゐる、朝の香春もよかつたが、夕の香春もよい。
河岸には(伊田の街はづれの)サアカスが興業してゐた、若い踊子や象や馬がサー[#「ー」に「マヽ」の注記]カス気分を十分に発散させてゐた、バカホ[#「ホ」に「マヽ」の注記]ンド、ルンペン、君たちも私も同じ道を辿るのだね。
枯草の上で、老遍路さんとしみ/″\話し合つた、何と人なつかしい彼だつたらう、彼は人情に餓えてゐた、彼は老眼をしばたゝいてお天気のよいこと、人の恋しいこと、生きてゐることのうれしさとくるしさとを話しつゞけた(果して私はよい聞手だつたらうか)。
夜は緑平居で句会、門司から源三郎さん、後藤寺から次郎[#「郎」に「マヽ」の注記]さん、四人の心はしつくり融け合つた、句を評し生活を語り自然を説いた。
真面目すぎる次郎さん、温情の持主ともいひたい源三郎さん、主人公緑平さんは今更いふまでもない人格者である。
源三郎さんと枕をならべて寝る、君のねむりはやすらかで、私の夢はまどかでない、しば/\眼ざめて読書した。
日が落ちるまへのボタ山のながめは、埃及風景のやうだつた、とでもいはうか、ボタ山かピラミツドか、ガラ炭のけむり、たそがれる空。
オコリ炭、ガラ炭、ボタ炭、ビフン炭(本当のタドン)、等、等、どれも私の創作慾をそゝる、句もだいぶ出来た、あまり自信はないけれど。
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 けふは逢へる霜をふんで(源三郎さんに)
 落葉拾ふてはひとり遊んでゐる
 
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