石窟
田山録弥

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(例)※[#「虫+璃のつくり」、第3水準1−91−62]
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         一

 そこに来た時には、二人は思はずはつとした。大きなものに――何とも言はれない大きなものに打突かつたやうな気がした。かれ等はかうしたものが此の山の中にあらうとは思はなかつた。
「む、む――」
 暫くしてから洋画家のAは唸るやうな声を出した。
「大したもんだな――何んとも言はれんな――」
 ひとりは小説家でMと言はれてゐた。
 二人はまた押黙つた。その感動を言ひあらはすための総ての言葉を失つて了つたといふやうに、または何も彼もすつかりそれに奪はれて了つたといふやうに。Aはヘルメツト帽を傾け、Mは麦稈帽子を手にしたまゝ、じつとその石刻の仏像に対して立つた。石窟の内はしんとして、外から入つて来た午前の光線が微かにその周囲を取巻いてゐる浮彫になつてゐる無数の仏像を照した。千二三百年を経過した塵埃のにほひが静かに鼻を撲
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