、とう/\学者にはならずじまひである。最初は怪しい小説家、それから英文学の教師、それから中学校の倫理担当、それから演劇改良、脚本作家。それから、日本の新楽劇振興案。つまり、種は十歳以前に蒔かれてしまつたのである。運命が定《きま》つてしまつたのである。三つ子の魂百までだと思ふとあさましい。つく/″\幼時の修養のゆるがせにしがたいことを今更のやうに悟る。今の少年たちは、私に比べると、ずっと幸福な時代、幸福な境遇に生れてゐるのである。又今の十歳は、私供の十歳よりはずっと怜悧であると思ふ。私はどの位ゐ損をしたか解らない。幼時の読み物が是れほどに後々まで影響するものと悟つたなら、私はもっと真面目に勉強するのであつた。少年諸君よ、四十余年の後に私と同じやうな事を言はぬやうに、とっくりと考へて勉強なさい。



底本:「日本の名随筆36・読」作品社
   1985(昭和60)年10月25日第1刷発行
   1991(平成3)年9月1日第10刷発行
底本の親本:「逍遥選集 第十二巻」第一書房
   1977(昭和52)年10月初版発行
入力:渡邉 つよし
校正:門田 裕志
2001年9月12日公開
青空文庫作成ファイル:
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