動する趣《おもむき》ありて宛然《さながら》まのあたり萩原某《はぎわらそれ》に面《おもて》合わするが如く阿露《おつゆ》の乙女《おとめ》に逢見《あいみ》る心地す相川《あいかわ》それの粗忽《そゝっか》しき義僕《ぎぼく》孝助《こうすけ》の忠《まめ》やかなる読来《よみきた》れば我知《われし》らず或《あるい》は笑い或は感じてほと/\真《まこと》の事とも想われ仮作《つくり》ものとは思わずかし是はた文の妙なるに因《よ》る歟《か》然《しか》り寔《まこと》に其の文の巧妙なるには因ると雖《いえど》も彼《か》の圓朝の叟《おじ》の如きはもと文壇の人にあらねば操觚《そうこ》を学びし人とも覚えずしかるを尚《なお》よく斯《かく》の如く一吐一言《いっといちげん》文をなして彼《か》の爲永《ためなが》の翁《おきな》を走らせ彼《か》の式亭《しきてい》の叟《おじ》をあざむく此の好稗史《こうはいし》をものすることいと訝《いぶか》しきに似たりと雖《いえど》もまた退《しりぞ》いて考うれば単《ひとえ》に叟《おじ》の述《のぶ》る所の深く人情の髄《ずい》を穿《うが》ちてよく情合《じょうあい》を写せばなるべくたゞ人情の皮相《ひそう》を写して
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