いたはもを熱飯《あつめし》の上に載せ、箸《はし》で圧《お》し潰すようにして、飯になじませる。そして、適宜《てきぎ》に醤油《しょうゆ》をかけ、玉露《ぎょくろ》か煎茶《せんちゃ》を充分にかけ、ちょっと蓋《ふた》をする。こうして、一分間ばかり蒸らし、箸で肉をくずしつつ食べるのである。
 はもは小味《こあじ》ないい脂肪があるために、味が濃くなく、舌ざわりがすこぶるいい。しかも、やり方が簡単だから、関西人でこの茶漬けを試みない者はなかろう。しかし、東京で試みようとすると、ちょっと容易ではない。なぜなら、今、東京にあるはもは、多く関西から運ばれるので、そうたくさんはない。従来の東京料理には、これを用いることがなかったために、魚屋の手にすら入らないことになっている。東京で、はもを求めようとするには、関西風の一流料理屋によって求めるよりほか仕方があるまい。
 それにしても、東京に来ているはもは、関西で食うように美味いわけにはいかぬ。また、東京近海で獲れるはもは、肉がベタベタして論にならぬ。そこで、代用品というのも当たらないかも知れないが、あなごとか、うなぎとかが同じ用に役立つ。

穴子《あなご》
 あ
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