パンを食べようと思ったが、もうパンがなくなったので、米びつの米を生のままかじって考えた。
「待て待て、台所もいいが、それより先に、働きやすいような、身軽な服装をこしらえることが第一だな」
それでも、なにもしないで、女房が部屋のすみの棚においていったりんごをかじった。
その男の頭が、少しふくれたようだ。
「そうだそうだ、果樹園を作ろう。新鮮なくだものを木からとってすぐ食べることはすばらしいぞ」
でも、男はなにもしなかった。そして米びつの米をかじった。
こうしてこの男は考えてばかりいるうちに、だんだん頭が大きくなっていった。少しも働かぬので、手や足はだんだん小さくなっていった。家の中にも、もう米もくだものもなんにも食べるものがなくなった。それでも男は考えることを止めずに、考え続けた。だんだん男の頭は大きくなって、手足や胴は小さくなっていった。
とうとう食べるものがなくなると、男は小さくなった自分の足を食べてしまった。でも、男は考えを止めなかったので、いよいよ頭が大きくなっていった。食べるものがないので、自分の胴を食べ、手を食べてしまった。
おしまいに、この男はもう食べるものがな
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