を知らねばならぬ。
一切れの魚を買うにも、魚屋はだいたいどの一切れを売ってもいいのだから、その魚のいちばんおいしいところを買う手もある。ある魚はしっぽの方がうまいが、また他の魚は腹の薄身がいちばんおいしいというふうに吟味するがよろしい。同時に一目見て、この魚は時を経ているか、新鮮かを見分けることができなければならぬ。それを発見するのは、目で見るだけでなく、心の目で見分けるのである。数多い経験の目である。
こういうことは、料理をする者にとって、まずいちばん大切な心がけである。骨董《こっとう》屋でも、目が利くということがいちばん大切なのと同じである。骨董屋は商売だから、目が利くのはあたりまえではないか。われわれは骨董屋ではないから、そんなに一目見て、味のよしあしまではわからぬというひとがあれば心得違いだ。
料理をする料理人は、骨董屋が骨董を扱うのと同じく、料理をするのが商売ではないか。女房は料理をつくって、主人においしいものを食べさせ、働かせるのが任務ではないか。そのくらいの熱心さと誠意がなくては、よい料理人とはいえず、また責任を知る主婦とはいえぬ。
「料理の美味不味は、十中九まで材料の質の選択にあり」と解してよい。いうなら種《たね》を選ぶことに、ベストを尽くすべきである。
底本:「魯山人の美食手帖」グルメ文庫、角川春樹事務所
2008(平成20)年4月18日第1刷発行
底本の親本:「魯山人著作集」五月書房
1993(平成5)年発行
初出:「星岡」
1953(昭和28)年
入力:門田裕志
校正:noriko saito
2009年12月3日作成
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