ネクタイは一円のネクタイ、三円のネクタイは三円のネクタイの美量的値打ちがある。これは一遍自分が験《ため》してみると分ります。シャツでも三円のシャツを買って暖かいと思っても、今度十円のやつを買うとまたそれだけよい。それが五十円のもの、八十円のものとなって、ついに本当の駱駝《らくだ》のシャツが一番よいということになる。全く体験すると一番よく分る。茶碗もその通りであります。そこで金持ちでありますがやはり、金を尊ぶ人程かえってわれわれ貧乏人から見て金を大事にする人が多いのでありますが、その金を尊ぶ金持ちなる者なかなかたやすく五万も十万もの金を出すものではありませぬが、それにかかわらず土で出来たところの茶碗に莫大《ばくだい》な金を出すのであります。これは相当美術を認識しているところからであります。直接目で認識しているもの、常識的に世間なみに認識しているもの、盲目的に有頂点になり人におだてられて買う者などいろいろあります。が結局は古陶磁の値段の高いということは美術品としての価値が高いのだと認めているのであります。値段の一番高いものは最高美術に値することだと思われているのであります。
それでこの古陶磁の中にもいろいろの産地があります。中国があり、朝鮮があり、日本があります。今日は必ずしも自分のことを宣伝するわけではありませぬが、話をしますとまったくこういう方面で日本製陶がこの頃深く認識されまして、日本陶器のよさということが漸次識者にだんだんと分りつつあるようであります。私どもの経験によりますと、最後は日本で生まれた陶器が一番よいということになります。書の研究も多少私に覚えがあるのでありますが、これもやはり日本の書が一番よいということになります。絵もまた日本の絵が一番よいということになる。建造物もまたそうであります。日本に存在しておりますような、歴史に残っておりますような建造物は中国にも、朝鮮にも決して存在してはおりませぬ。それから古来もともとやかましくいわれておりますが能書はやはり弘法大師であり、道風であり、逸勢《はやなり》であり、あるいは嵯峨天皇のごとき、あるいはずっと降《くだ》りまして三藐院《さんみゃくいん》、近衛公。徳川時代になって物徂徠《ぶつそらい》、あるいは良寛禅師とか、それからもっともよい字を書いたのは大徳寺の高僧たちであります。こういうようなよい字は中国には見られ
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