どじょうの良否を見分けるには、まず卵に着眼し、卵の絶無のものを第一とし、以下なるべくこれの少ないものを選ぶべきである。卵の多いものは、肝心の肉付きが少ない。どじょう割《さ》きは、素人《しろうと》の手に負えぬものとなっているが、それは急所に錐《きり》が打ち込めないからで、その急所は目の付け根とおぼしいところの背骨にある。この個所《かしょ》に錐を打てば、どじょうは一遍に参ってしまう。
 小どじょう、大どじょうともに味噌汁《みそしる》に丸ごと入れることが一番|美味《うま》いとされているが、十人中九人までは、丸ごとの姿を見ただけで、ぞっとしてしまうから、これはいかもの食い向きとしておくべきであろうか。四、五寸のものを丸ごと照り焼きにして、皿に盛る際、頭と尾を切り落とし、棒状形にして膳《ぜん》にのぼす。これならば、家庭で試みてもよいものである。東京では埼玉の越ヶ谷辺《こしがやあたり》の地黒《じぐろ》というどじょうが上物《じょうもの》で大きく、以前、うなぎの大和田《おおわだ》あたりで盛んに蒲焼きにして、「どかば」と称して、一時人気を呼んだものである。
 どじょうなべの要点はだしで、表側の卵を汚さぬ工夫、だしを笹《ささ》がきごぼうの下にだぶだぶ残さない工夫、卵を笹がきの中まで沈めない工夫、この三つができたら本格である。



底本:「魯山人の食卓」グルメ文庫、角川春樹事務所
   2004(平成16)年10月18日第1刷発行
   2008(平成20)年4月18日第5刷発行
底本の親本:「魯山人著作集」五月書房
   1993(平成5)年発行
初出:「朝日新聞」
   1938(昭和13)年
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2010年1月14日作成
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