かくの高いかつおぶしを買う時は、大騒動して、さてそれを、ほんとうに粗末に、もったいないような使い方をしているひとがある。ぜいたくに、しかもかつおぶしの本当の味を出さずに、使ううちに、いいカンナでかいて使えば、五本使うところが一本ですむ。その方がどれだけ経済的だか分らん」
詩人は感心してきいていた。
「でも、先生、カンナを、上手に使うのはむずかしいでしょうね」
「変な、安もののかつおかきで、汗をかいて、かつおぶしをごしごしけずって、木屑《きくず》や、砂のようなけずり方をするより、上等のカンナでかく方が、どれだけ楽だかしれやしないよ」
「そうですかね。先生、オンナも、カンナと、同じですね」
「どうして」
「いい女房をもらっておけば、一生味がよくて経済的ですね」
「ハハ……なるほど落語の落ちだな。オンナとカンナと似ているね」
わたしはビールを飲んだ。詩人はウイスキーをなめつつ、
「オンナとカンナ」と、うたうようにいった。
さぞこの詩人は、こんど、オンナとカンナという詩をつくるつもりだろう。
底本:「魯山人の美食手帖」グルメ文庫、角川春樹事務所
2008(平成20)年4月18
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