くうちに食べてしまうと、さっさとまた雑踏の中へ紛れ込んで行きます。
ここで満腹するには、二ドルまではかかりません。朝食の場合ですと、トースト十セント、ハムエッグ三十セント、それにコーヒー二十セント、これで充分です。
ニューヨークのイタリア料理店マルキ。ここでのお酒とソーセージのうまかったこと。これは大書するに価します。わけてもリング(たらの類)という魚の空揚《からあ》げは忘れられません。肉離れがよく、外国にもこんなうまい魚があるか、と感心しました。この魚の大きさは一尺五寸から二尺ぐらい。
魚といえば、国連大使沢田廉三さんの公邸でご馳走になったシーバスの刺身は、ちょいと日本にも例の少ないくらいおいしいものでした。
ここで相当名の知れた「都《みやこ》」という日本料理店。すきやきが出ましたが、お相撲《すもう》さんのチャンコ鍋同然で、なにもかもゴッチャに煮ているのには驚きました。聞いたら、主人は新潟生まれ、東京も京都も知らず、参考のために僕がすきやきの模範を示したところ、
「ヘェー、すきやきというものは、そういうふうにして作るものですか」
と目を丸くしていました。呵々《かか》。
五
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