ないから、大工とか仕事をするひとに研いでもらえばいい。そのほか、とぎや専門という商売もあるのだから、いつも大工の鉋のようによく切れるようにしておかなければ、料理をしようとする時にまごつくのがオチだ。
 日本にはかつおぶしがたくさんあるので、そう重きをおいていないが、外国にあったら大変なことだ。外国人はかつおを知らないし、従ってかつおぶしを知らない。牛乳とか、バターとか、チーズのようなもの一本で料理をしている。しかし、これは不自由なことであって、かつおぶしのある日本人はまことに幸せである。ゆえに、かつおぶしを使って美味料理の能率をあげることを心がけるのがよい。味、栄養もいいし、よい材料を選べば、世界に類のないよいスープができる。
 それなのに、かつおぶしに対する知識もなく、削り方も、削って使う方法も知らないのは、情けないことだ。その上削る道具もない――これはものの間違いで、大いに反省してもらいたいことだ。現在、鉋でかつおぶしを削っているのは料理屋のみであって、たいがいは道具もなくて我慢しているようである。その料理屋さえ最近削りかつおぶしを使用している。削り節にもいろいろあって、最上の削り節ならば、まずまずであるが、削り節は削り立てがいいので、時がたってはよろしくない。
 鉋があっても、切れない場合が多いし、それを使用して削れないと思うくらいなら、日本料理をやめた方がいい。
 料理にかぎらず、やるというのなら、どんなことでもやるのが当然で、やらなければ達成できない。かといって、この場合、料理屋の真似《まね》をしてガラスで削るのは危険だし、たくさん削る場合は間に合わないから、無理をしてかつおぶしを削ることになる。しかし、無理をすることは味が死ぬことになるのであるから、生きた味を出すためには、よく切れる鉋にかぎるのである。
 鉋を持ってないひとがいたら、ここで一奮起して、大工の使用している鉋を購入するようお勧めしたい。大工の鉋一つ買うことは、値段からいっても高価ではないし、生涯なくなるものでもないのだから、不経済にはならない。要は研げないと頭からきめてかからずに、インチキ鉋の使用を一刻も早くやめる必要があろう。
 さて昆布だしのことは、東京では一流の料理屋以外はあまり知らないようだ。これは、東京には昆布を使うという習慣が昔からなかったからだろう。昆布のだしは実に結構なもので
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