そがしき浮世の影ぞ あらはるゝ
そこに眼に見る ほどちかき大路をば
    カメロットへ うねくれる
そこに 河水も 渦まきてまきめぐり
又 そこに あらくれる村のをのこも
きぬ赤き市の乙女も
    いでてゆく 此の島より

あるときは うれしげなる乙女子の一むれ
さては やすらかに駒あゆまする老法師
あるときは 羊飼ふ ちゞれ毛のわらべ
若しくは 長髪の小殿原 くれないのきぬ着たる
    通りゆく影ぞうつる 多楼台のカメロットへ
あるはまた 其の碧なす鏡のうちに
ものゝふぞ 駒に乗りくる ふたり また ふたり
あはれ まだひとりだに真心を傾けて此の姫にかしづく武士もなし
    此のシャロットの妖しの姫に

さはれ 姫はいつも/\綾ぎぬを織ることを楽しみとす
鏡なる怪しの影を織りいだすことを
けだし ともすれば さびしき夜半に
亡き人の野べ送りする行列 喪の服に鳥毛を飾り松明をともしつらね
     さてはとぶらひの楽を奏し カメロットさして練りゆきけり
又は 夕月の高うなれるころ
まだきのふけふ連れそひし若き男女の むつやかに打語りつゝ来たりけり
あはれ倦みはてつ影見るもと
    妖しの姫はいへりけり

   其の三

矢ごろばかりに 姫が住む たかどのゝ軒端より
彼の人は騎馬にてゆきぬ 大麦の穂の間を
日の光 まばゆくも葉越しに射して
きらめきぬ 黄銅の胸当の上に
    勇敢なるサー・ランセロットが胸当の上に
一個の赤十字架のものゝふ 常に 一佳人の脚下に
跪座せり 彼れが持てる楯の面に
その楯 燦爛たり 黄ばめる畑に映じて
    はるかなるシャロットの島外に

珠玉を鏤めたる手づなは くまもなくきらめきぬ
とある連なれる星のやうに 我れ人の
懸かるを見る 彼の黄金なす天の河に
此の手綱に附けたる鈴 心浮き立つやうに鳴りひゞきぬ
    カメロットへ志して 彼れが駒を進めける時
また 其の盛飾せる革帯よりは つるされて
一のいみじき白がねの角ぶえぞ 懸かりたる
かくて 駒の進むにつれて 物の具は鏘々として鳴りわたりぬ
    かなたシャロットの島辺までも

なべて 青空の 雲もなく晴れたる日に
しげく珠玉もて飾られて 輝けり 鞍のなめし革は
兜も 兜の羽根飾りも
炎々たり 合して一団の猛火の如く
    カメロットへ志して 彼れが駒を進めける時
譬へ
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