るにも拘わらず、其言葉のもつユーモアの為めに人を怒らしめぬ徳がある。素人のする漫談を痛罵して「結び目なき話の尻は走ったままの電車であり、幕の閉まりそこねた芝居でもある」と云い、日本の近代洋画を談じては「どうやら手数を省いて急激に人の眼と神経をなぐりつけようとする傾向の画風と手法が発達しつつあり」と云い、立秋奈良風景を描いては猿沢池から春日へ爪先あがりのかんかん[#「かんかん」に傍点]照りの坂道を「丁度張物板を西日に向って立てかけてあるのと同じ角度に於て太陽に向って居る」と云い、又尖端的な世界にあっては清潔第一、垢が禁物であることを論じては「それは手術室の如く埃と黴菌を絶滅し、エナメルを塗り立てて、渋味、雅味、垢、古色、仙骨をアルコオルで洗い清め、常に鋭く光沢を保たしめねばならない。断髪の女性にして二三日風邪で寝込むとその襟足の毛が二三分延びてくる。すると尼さんの持つ不吉なる雅味を生じてくる」と述ぶるが如き、みな彼独特のユーモアと警句とでないものはない。
渡欧に際し猿股のことばかり考えて居て絵具箱を携帯する事を忘れて了ったと、私は神戸の埠頭に於て彼から直接聴いたのであるがそれは彼として
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