いのである。土地の名勝をかき出せとその筋からの達しで書き出されたのが、ここに引用した『郡村誌』の記事で、この記事がもとになって多くの地理書に実際と相違した誤を伝えるようになったのである。それはとにかく滝の方は記載が不完全で、水源は判ってもそれが何川に在るのか不明である。けれども事実真の猪ノ鼻の滝は栗原川に懸っているし、猪ノ鼻と誤り伝えられた円覚の瀑は栗原川の上流不動沢に懸る瀑であるから、その水源に在る皇開山は笄山であることは疑なきことである。してみると明治廿一年頃は、笄山は皇開山とも書かれたものと見える。それが皇海山となったのは不思議でも何でもないが、スカイと呼ばれるようになったのはいつ頃からの事であるか知らないが、勿論最近の事であろうと思う。皇海が何かの原因でスカイと誤読されてそのまま通用するようになったものであろう。皇は「すめ、すめら」と読むから皇海をスカイと誤読することは有り得よう。座句は無論サクと読めるし、コウガイがクワウガイと漢字をあてられることなどは、地方には稀でない例である。
『上野国志』にはこの山を下野にて定顕房山というとある。附近には宿堂房山というのがあるから、定顕房
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