、あないなことばかり云うとります。どうぞ、しかってやってお呉れやす。」
「まア、こういう人間は云いたいだけ云わして置きゃア済むんですよ。」
「そうどすか?」と、細君は亭主の方へ顔を向けた。
「まだ女房にしかられる様な阿房やない。」
「そやさかい、岩田はんに頼んどるのやおまへんか?」
「女郎《メロウ》どもは、まア、あッちゃへ行とれ。」
「はい、はい。」
細君は笑いながら、からの徳利を取って立った。
友人は手をちゃぶ台の隅にかけながら、顔は大分赤みの帯び来たのが、そばに立ってるランプの光に見えた。
「岩田君、君、今、盲進は戦争の食い物やて云うたけど、もう一歩進めて云うたら、死が戦争の喰い物や。人間は死ぬ時にならんと真面目になれんのや。それで死んでしもたら、もう、何もないのや。つまらん命やないか? ただくたばりそこねた者が帰って来て、その味が甘かったとか、辛かったとか云うて、えらそうに吹聴するのや、僕等は丸で耻さらしに帰って来たんも同然やないか?」
「そう云やア、僕等は一言も口嘴をさしはさむ権利はない、さ」
「まァ、死にそこねた身になって見給え。それも、大将とか、大佐とかいうものなら、立
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