ひとりでに廻りはじめる
ごろごろと
その音はまるで海のやうだ
金《きん》の穀物は亂暴にもその摺臼に投げこまれて
そこでなかのいい若衆《わかいしゆ》と娘つ子のひそひそばなしを聞かせられてゐる
ごろごろと
その音はまるで海のやうだ
ごろごろごろごろ
何といふいい音だらう
あちらでもこちらでもこんな音がするやうになると
お月樣はまんまるくなるんだ
そしてもうひもじがるものもなくなつた
ああ收穫のよろこびを
ごろごろごろごろ
世界のはてからはてまでつたへて
ごろごろごろごろ
草の葉つぱの詩
晩秋の黄金色のひかりを浴びて
野獸の脊の毛のやうに荒荒しく簇生してゐる草の葉つぱ
一まいの草の葉つぱですら
人間などのもたない美しさをもつ
その草の葉つぱの上を
素足ではしつて行つたものがある
素足でその上をはしつて行つたものに
そよ風は何をささやいたか
こんなことにもおどろくほど
ああ人間の惱みは大きい
素足でその上をはしつて行つたものがあると
草の葉つぱが騷いでゐる
或る風景
みろ
大暴風の蹶ちらした世界を
此のさつぱりした慘酷《むごた》らしさを
骸骨のやうになつた木のてつぺんにとまつて
きりきり百舌鳥《もず》がさけんでゐる
けろりとした小春日和
けろりとはれた此の蒼空よ
此のひろびろとした蒼空をあふいで耻ぢろ
大暴風が汝等のあたまの上を過ぐる時
汝等は何をしてゐた
その大暴風が汝等に呼びさまさうとしたのは何か
汝等はしらない
汝等の中にふかく睡つてゐるものを
そして汝等はおそれおののき兩手で耳をおさへてゐた
なんといふみぐるしさだ
人間であることをわすれてあつたか
人間であるからに恥ぢよと
けろりとはれ
あたらしく痛痛しいほどさつぱりとした蒼空
その下で汝等はもうあらし[#「あらし」に傍点]も何も打ちわすれて
ごろごろと地上に落ちて轉つてゐる果實《きのみ》
泥だらけの青い果實をひろつてゐる
雪ふり蟲
いちはやく
こどもはみつけた
とんでゐる雪ふり蟲を
而も私はまだ
一つのことを考へてゐる
冬近く
お前の目はふかい
それはまるで淵のやうだ
冬近く
その目の中にぽつちり……
ぽつちりと點じた一つの灯を思へ
此の眞實に生きよ
いまは薄暮である
此のさびしさを愛せよ
蟋蟀
記憶せよ
あの夜のことを
あの暴風雨を
あの暴風雨にも鳴きやめず
ほそぼそと力
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