燈線のいたるところで
黄金色に匂ふ燭光のうつくしさよ
黄金色に匂ふ千萬の燭光
みろ
都會はまるで晝のやうだ
だいあもんど[#「だいあもんど」に傍点]がなんだ
るびい[#「るびい」に傍点]がなんだ
此の壯麗な都會の街街家家
ここに棲む人間なればこそどんな苦みをも耐へるのだ
ここにすむ人間の幸福
ああ何もいらない
此の壯麗に匹敵するものは何か
此の幸福の上にあつて
都會は生きてゐる
よるのふけるにしたがつて
よるがふければふけるほど
だんだん都會は美しく光りかがやき
ここで疲れた人間が神神のやうに嚴かな眼瞼《まぶた》を靜にとぢるのだ
此のうつくしさは生きてゐる
握手
どうしたといふのだ
そのみすぼらしいしをれやうは
そのげつそりと痩せたところはまるで根のない草のやうだ
おい兄弟
どうしたといふのだ
何はともあれ握手をもつてはじめることだ
さあその手をだしたまへ
しつかりと自分が握つてやる
大麥を刈りとつた畠に
これはいま秋そば[#「そば」に傍点]を播きつけてきた手だ
どんなことでもしつてゐる手だ
どんなことにも耐へてきた手だ
土臭いとて顏を蹙めるな
此の手は君に確信を與へる
ぐつとつきだせ
もぢもぢするのは耻づべき行爲だ
君もその手に力をこめて
そして自分の痛いといふほど
握りかへしてくれ
それでよろしい
強く正しく直立《つつた》て!
故郷にかへつた時
これではない
こんなものではない
自分が子どもでみた世界は
山山だつてこんなにみすぼらしく低くはなかつた
何もかもうつくしかつた
太陽はいま蜀黍畑にはいつたところだ
一日の終りのその束の間をいろどつてゆつたりと
太陽はいま蜀黍畑にはいつたところだ
大きなうねりを打つて
いくへにもかさなりあつた丘の畑と畑とのかなたに
赤赤しい夕燒け空
枯草を山のやうに積んだ荷馬車がかたことと
その下をいくつもつづいてとほつた
何といふやすらかさだ
此の大きいやすらかな世界に生きながら人間は苦んでゐる
そして銘々にくるしんでゐる
それがうつくしいのだ
此のうつくしさだ
どこか深いところで啼いてゐるこほろぎ[#「こほろぎ」に傍点]
自分を遠いとほいむかしの方へひつぱつてゆくその聲
けれど過ぎさつた日がどうなるものか
何もかも明日《あした》のことだ
何もかも明日のことだ
※[#ローマ数字7、1−13−27]
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