》は地べたにへたばるんだ
まあいいさ
何もかも神樣がごぞんじでいらつしやることだ
さうして其時、世界が息を吹返すんだ
寢てゐる人間について
みろ
何といふ立派な骨格だ
そしてこの肉づきは
かうしてすつぱだかで
ごろりとねてゐるところはまるで山だ
すやすやと呼吸するので
からだは山のうねりを打つ
ようくお寢《やす》み
ようくおやすみ
ゆふべの泥醉《ゑひ》がすつかりさめて
ぱつちりと鯨のやうな目があいたら
かんかん日の照るこの大地を
しつかり
しつかり
ふみしめて
またはたらくのだ
ようくおやすみ
おお寢てゐる人間のもつてゐる此の偉大
おおびくともしない此の偉大
それをみてゐると
自《おのづか》らあたまが垂れる
子どもは泣く
子どもはさかんに泣く
よくなくものだ
これが自然の言葉であるのか
何でもかでも泣くのである
泣け泣け
たんとなけ
もつとなけ
なけなくなるまで泣け
そして泣くだけないてしまふと
からりと晴れた蒼天のやうに
もうにこにこしてゐる子ども
何といふ可愛らしさだ
それがいい
かうしてだんだん大きくなれ
かうしてだんだん大きくなつて
そしてこんどはあべこべに
泣く親達をなだめるのだ
ああ私には眞實に子どものやうに泣けなくなつた
ああ子どもはいい
泣けば泣くほどかはゆくなる
※[#ローマ数字4、1−13−24]
人間の午後
まだそこで
わめきうめいてゐるのか
ヴアヰオリン
何といふ重苦しい日だ
黒黒と吐かれる煤烟
大きなけむだし[#「けむだし」に傍点]の彼方に太陽はおちて行く
此の憂鬱のどん底で
うごめいてゐる生きものに幸あれ
祈祷の一ばんはじめの言葉
主よ、人間のくるしみはひまはり[#「ひまはり」に傍点]よりもうつくしい
雨の詩
ひろい街なかをとつとつと
なにものかに追ひかけられてでもゐるやうに驅けてゆくひとりの男
それをみてひとびとはみんなわらつた
そんなことには目もくれないで
その男はもう遠くの街角を曲つてみえなくなつた
すると間もなく
大粒の雨がぽつぽつ落ちてきた
いましがたわらつてゐたひとびとは空をみあげて
あわてふためき
或るものは店をかたづけ
或るものは馬を叱り
或るものは尻をまくつて逃げだした
みるみる雨は横ざまに
煙筒も屋根も道路もびつしよりとぬれてしまつた
そしてひとしきり
街がひつそりしづかになると
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