さりゆてゑしよん

純銀霜月の
光にびしよ濡れ
いちねん
智慧の玉乘り
頭蓋《あたま》がないぞ、おい、
玉は陰影《かげ》を引き
みちばたの草にかくれた。


  鑿心抄

秋ふかみ
さみしらに
栗鼠鳴き
瞳《め》を永遠につらならせ。

   *

立てる十字架
立てるは胸の上
ひねもす
にくしんの蟲を刺し。

   *

しろがねの
ほんねんのかねは
こずゑに
しづかなり。
わがそら
わがてのうへに
ゆれゆれて
したたる。

   *

やまにはやまのしんねん
ひとにはひとのりんくわく。


  肉

癩病める冬の夜天
聖靈のとんねる[#「とんねる」に傍点]
ふおく[#「ふおく」に傍点]は悲しめ斷末魔
純銀食堂車
卓上に接吻あり
卓上永生はかなしめ。


  晝

としよりのゐねむり
ゐねむりは
ぎんのはりをのむ
たまのりむすめ
ふゆのひのみもだえ
そのはなさきに
ぶらさがりたるあをぞら。


  汝 に

大空
純銀
船孕み
水脈
一念
腹に
臍あり。


  燐 素

指を切る
飛行機
麥の芽青み
さみしさに
さみしさに
瞳《め》を削げ
空にぷらちな[#「ぷらちな」に傍点]の脚
胴體紫紺
冬は臍にこもり
ひるひなか
ひとすぢのけむりを立て。


  午 後

さめかけた黄《きいろ》い花かんざしを
それでもだいじさうに
髮に插してゐるのは土藏の屋根の
無名草
ところどころの腐つた晩春……
壁ぎはに轉がる古い空《から》つぽの甕
一つは大きく他は小さい
そしてなにか祕密におそろしいことを計畫《たくら》んでゐる
その影のさみしい壁の上
どんよりした午後のひかりで膝まで浸し
瞳の中では微風の纖毛の動搖。


  風 景
     純銀もざいく

いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
かすかなるむぎぶえ
いちめんのなのはな

いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
ひばりのおしやべり
いちめんのなのはな

いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
やめるはひるのつき
いちめんのなのはな。


  誘 惑

ほのかなる月の觸手
薔薇の陰影《かげ》のじふてりあ[#「じふてりあ」に傍点]
みなそこでなくした瞳
それらが壺にみちあふれる。
榲※[#「※」は「木へん+孛」、90−21]のふくらみ
空間のたるみ
そして愛の重み
蟲めがねの中なる悲哀。


  冬

ふところに電流を仕掛け
眞珠頸飾りのいりゆじよん[#「いりゆじよん」に傍点]
ひかりまばゆし
ぬつとつき出せ
餓ゑた水晶のその手を……
おお酒杯
何といふ間抜けな雪だ
何と……凝視《みつむ》るゆびさきの噴水。


  いのり

つりばりぞそらよりたれつ
まぼろしのこがねのうをら
さみしさに
さみしさに
そのはりをのみ。



底本:「山村暮鳥全集第一巻」筑摩書房
   1989(平成元)年6月9日初版第1刷発行
底本の親本:「聖三稜玻璃」人魚詩社
   1915(大正4)年12月10日発行
入力:泉井小太郎
校正:泉井小太郎、富田倫生
ファイル作成:富田倫生
2000年1月31日公開
2001年3月17日修正
青空文庫作成ファイル:
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