+云」、第3水準1−14−87]《い》つた
お月さんは
美味《うま》さうでもねえなあ
おなじく
こどもはいふ
たくさん頭顱《あたま》を
叩かれたから
それで
大人《おとな》は悧巧になつたんだね
おなじく
篠竹一本つつたてて
こどもが
家のまはりを
駈けまはつてゐる
ゆふやけだ
ゆふやけだ
おなじく
こどもが
なき、なき
かへつてきたよ
どうしたのかときいたら
風めに
ころばされたんだつて
おう、よしよし
こんどとうちやんがとつつかまへて
ひどい目にあはせてやるから
馬
たつぷりと
水をたたへた
田んぼだ
代《しろ》かき馬がたのくろで
げんげの花をたべてゐる
おなじく
馬が水にたつてゐる
馬が水をながめてゐる
馬の顏がうつつてゐる
おなじく
だあれもゐない
馬が
水の匂ひを
かいでゐる
ゆふがた
馬よ
そんなおほきななりをして
こどものやうに
からだまで
洗つてもらつてゐるんか
あ、螢だ
朝顏
瞬間とは
かうもたふといものであらうか
一りんの朝顏よ
二日頃の月がでてゐる
おなじく
芭蕉はともかくも
火をこしらへて
茶をいれた
それからおもひだしたやうに
かたはらのお櫃を覗いてみて
さびしくほほゑみ
その茶をざぶりぶつかけて
さらさらと
冷飯を食べた
朝顏よ
さうだつたらう
渠《かれ》には、妻も子もなかつた
おなじく
まんづ、まんづ
この餓鬼奴《がきめ》はどうしたもんだべ
脊中で
おつかねえやうだよ
朝顏の花喰ひたがつてるだあよ
驟雨
沼の上を
驟雨がとほる
そのずつとたかいところでは
雲雀が一つさへづつてゐる
ぐツつら
ぐツつら
馬鈴薯《じやがたらいも》が煮えたつた
おなじく
驟雨は
ぐつしよりとぬらした
馬もうまかたも
おんなじやうに
病牀の詩
朝である
一つ一つの水玉が
葉末葉末にひかつてゐる
こころをこめて
ああ、勿體なし
そのひとつびとつよ
おなじく
よくよくみると
その瞳《め》の中には
黄金《きん》の小さな阿彌陀樣が
ちらちらうつつてゐるやうだ
玲子よ
千草よ
とうちやんと呼んでくれるか
自分は耻ぢる
おなじく
ああ、もつたいなし
もつたいなし
けさもまた粥をいただき
朝顏の花をながめる
妻よ
生きながらへねばならぬことを
自分ははつきり
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