》さ」


 口喧嘩

 南瓜《かぼちや》と甜瓜《まくはうり》と、おなじ畑《はたけ》にそだちました。種子《たね》を蒔《ま》かれるのも一しよでした。それでゐて大《たい》へん仲《なか》が惡《わる》かつたのです。
 おたがひに日《ひ》に々々|大《おほ》きく、いまは人間《にんげん》の眼《め》をひくほどになりました。
 或《あ》る日《ひ》、おてんば娘《むすめ》の甜瓜《まくはうり》が、かぼちや[#「かぼちや」に傍点]に毒舌《どくぐち》を吐《つ》きました。
「よお。おむかうの菊石《あばた》顏《づら》の若《わか》だんな。おほゝゝゝ。なにをそんなにお欝《ふさ》ぎなの、大抵《たいてい》で諦《あきら》めなさいよう。いくらかんがえたつて、みつともない。第《だい》一そのお面《めん》ぢやはじまらないんだから」
 それをきいたかぼちや[#「かぼちや」に傍点]の怒《をこ》つたの怒《をこ》らないのつて、石《いし》のやうな拳固《げんこ》をふりあげて飛《と》び懸《かか》らうとしましたが、蔓《つる》が足《あし》にひつ絡《から》まつてゐて動《うご》かれない。くやしさに鬼《をに》のやうな顏《かほ》がいよいよ鬼《をに》のやうに醜《みにく》く、まつ赤《か》になりました。ぶるぶると身震《みぶる》ひしながら「うむむ、うむむ」と何《なに》か言《い》はうとしても言《い》へないで悶《もだ》えてゐました。
 そして漸《やつ》と
「いまだからそんな口《くち》もきけるんだ。此《こ》の尼《あま》つちよめ!……貴樣《きさま》が花《はな》だつた時分《じぶん》ときたらな……どうだい、あの吝嗇《けち》くせえ小《ちつ》ぽけな、消《け》えてなくなりさうな花《はな》がさ。それでも俺《おい》らは何《んない》とも言ひやしなかつた……自分《じぶん》のことは棚《たな》に上《あ》げたなり忘《わす》れてしまつて。お前《めえ》はあれでも耻《はづか》しいとも何《なん》とも思《おも》つてはゐなかつたのか」とどもり吃《ども》り、つぎはぎだらけの仕返《しかえ》しをして、ほつと呼吸《いき》をつきました。
 甜瓜《まくはうり》は葉《は》つぱのかげで、その間《あひだ》、絶《た》えずくすくす笑《わら》つてゐました。
 けれども南瓜《かぼちや》はくやしくつて、くやしくつて、たまらず、その晩《ばん》、みんなの寢靜《ねじづ》まるのを待《ま》つて、地《ぢ》べたに頬《ほつぺた》をすり
前へ 次へ
全34ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
山村 暮鳥 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング