》げ容貌堂々|威風凜々《いふうりんりん》たる武者である、某はあまり意外なものに出会い呆然《ぼうぜん》として見詰《みつめ》ているうち、彼《か》の武者は悠々《ゆうゆう》として西の宮の方へ行《いっ》てしまったが、何が為《た》めに深夜こんな形相《ぎょうそう》をして、往来をするのか人間だろうか妖怪だろうか、思えば思うほど、不審が晴れぬと語りしは、今から七八年あとの事である。
◎浅草《あさくさ》の或る寺の住持《じゅうじ》まだ坊主にならぬ壮年の頃|過《あやま》つ事あって生家を追われ、下総《しもうさ》の東金《とうかね》に親類が有るので、当分厄介になる心算《つもり》で出立《しゅったつ》した途中、船橋《ふなばし》と云う所で某《ある》妓楼《ぎろう》へ上《あが》り、相方《あいかた》を定めて熟睡せしが、深夜と思う時分|不斗《ふと》目を覚《さま》して見ると、一人であるべき筈の相方《あいかた》の娼妓《しょうぎ》が両人《ふたり》になり、しかも左右に分《わか》れて能《よ》く眠っているのだ、有る可《べ》き事とも思われず吃驚《びっくり》したが、この人若いに似合《にあわ》ず沈着《おちつい》た質《たち》ゆえ気を鎮《しず》めて、見詰めおりしが眼元《めもと》口元《くちもと》は勿論《もちろん》、頭の櫛《くし》から衣類までが同様《ひとつ》ゆえ、始めて怪物《かいぶつ》なりと思い、叫喚《あっ》と云って立上《たちあが》る胖響《ものおと》に、女も眼を覚《さま》して起上《おきあが》ると見る間に、一人は消えて一人は残り、何に驚《おど》ろいて起《おき》たのかと聞《きか》れ、実は斯々《これこれ》と伍什《いちぶしじゅう》を語るに、女|不審《いぶかし》げにこのほども或る客と同衾《どうきん》せしに、同じ様な事あり畢竟《ひっきょう》何故《なにゆえ》とも分明《わか》らねど世間に知れれば当楼《このうち》の暖簾《のれん》に疵《きず》が付《つく》べし、この事は当場《このば》ぎり他言は御無用に願うと、依嘱《たのま》れ畏々《おそるおそる》一《ひ》ト夜《よ》を明《あか》したる事ありと、僕に話したが昔時《むかし》の武辺者《ぶへんしゃ》に、似通った逸事《いつじ》の有る事を、何やらの随筆本で見たような気もする。
◎これは些《ちと》古いが、旧幕府の頃|南茅場町《みなみかやばちょう》辺の或る者、乳呑子《ちのみご》を置《おい》て女房に亡《なく》なられ、その日稼
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