加わって、まず無事に万端《ばんたん》終ったのである。
 それからやがて六ヶ月ばかり経《た》って、翌年の二月だったが、私の塾の女門弟が箏《こと》がほしいという、古いのでもいいというので私は早速《さっそく》琴屋を呼んで、幾面も取《とり》よせて色々《いろいろ》のと検定して中から一番気に入った品を周旋《しゅうせん》してやった、ところが不思議にもその品は曾《かつ》て見た事がある様な気がする、もしやと、箏樋《ことひ》の裏を見ると吃驚《びっくり》した、即《すなわ》ちその貼紙を発見したのだ、買った娘は、恰《あだか》も何か白羽の矢が自分にでも当ったかの如く思って、ワッとばかり自分の前に泣き伏した、自分は色々《いろいろ》と慰《なぐさ》めて、漸《ようや》く安心させたが、今もその娘が愛用している。
 するとまた、四ヶ月ばかりの後《のち》のことだ、私の講習所の支部を大阪に置いてあったがそこへ出稽古に行ったところ、一人の門弟が古箏《ふるごと》を持って来て、自分に見てもらいたいというのである、これも、きたいに見覚えのあるので、もしやとまた箏樋《ことひ》の裏を検捜《しら》べると、二度|喫驚《びっくり》、それが、即《す
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