粉と油で焼いたパンを毎日たべてゐたのだが、粉も油も尽きなかつたといふ話。子供の時分に読んだその奇蹟の粉と油のことを思ひ出した、その昔から彼等は粉に油を交ぜてパンを焼いてゐたのだが、どこの国から教へられたものだらうと、もつと古くから開けてゐた国々の事を考へた。そんなやうな食物のことなぞぽつんぽつんと思ひ出して、心はどこともなく遊び歩くのである。
 慣れしたしむといふことは何によらずその人の身に色をつけ力をつける。餅は、餅屋にといふのは専門家のことを言ふのだけれど、毎日の生活に私たちの頭にひそむものや指に手馴れたものが知らずしらずに出て来るやうである。



底本:「燈火節」月曜社
   2004(平成16)年11月30日第1刷発行
底本の親本:「燈火節」暮しの手帖社
   1953(昭和28)年6月
入力:竹内美佐子
校正:林 幸雄
2009年8月17日作成
青空文庫作成ファイル:
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