に煮たもの。サラダすこし。うす紅のアイスクリーム、ちまき屋のまんぢゆうを蒸したのとコーヒ。みごとな色の料理で、ソーザイランチ以上と見えた。つぎは七月頃、パイは出さず冷肉だつたと思ふ。ほそいんげんの黒ごま和へ。小えび、アスパラ。特別の御馳走はフルーツサラダで、バナナ、パインアップル、桃やネーブル、ほし葡萄と胡桃も交り豪しやなもので、食後は長崎カステラとおせん茶であつた。
夫人が帰国する時、ある奥さんと私と、送別のために小さいお茶料理に夫人を招待した。小座敷にむつましく坐つて、鯛のさしみ、大きな鮎の塩やき、栗のふくませなぞを夫人はよろこんでくれた。そしてきんこ[#「きんこ」に傍点]と小かぶのみそ汁をほめた。きんこ[#「きんこ」に傍点]はどんな物かと訊かれて、私よりも英語の話せる奥さんが、きんこ[#「きんこ」に傍点]は、海にゐる時は黒く柔かい生物でナマコと呼ばれる。ナマコを乾したものがきんこ[#「きんこ」に傍点]であると、しどろもどろに説明したが、その黒く柔かい物がB夫人にはとても分らないだらうと思つた。それから「おそば[#「そば」に傍点]はお好きですか」と訊くと、「ふうん!」と夫人は考へる眼つきをして「味はよろしい。長さがわれわれを困らせる」と言つた。
先日私は配給の短メンを食べてゐて、おそば[#「そば」に傍点]の長さがわれわれを困らせると言つたB夫人を思ひ出した。短メンのみじかさはわれわれを寂しくする。さう思つて私は月日のうごきを考へてゐた。
底本:「燈火節」月曜社
2004(平成16)年11月30日第1刷発行
底本の親本:「燈火節」暮しの手帖社
1953(昭和28)年6月
初出:「美しい暮しの手帖 八号」暮しの手帖社
1950(昭和25)年7月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:竹内美佐子
校正:富田倫生
2008年10月14日作成
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