れて炒りつける、「味噌つころがし」と言つて主食の足しになる。これは馬鹿にできないしやれた味で、今なら新じやがのごく小粒のところで残りいものつもりにして食べる。
 白菜やきやべつの漬物がたべられるやうになつたのは、昭和二十二年頃からと思ふが、この記念日には少々ばかり白菜のやうな贅沢品を使はせてもらへば、漬物でもスープでも大に助かる。食後の果物はりんご、柿、葡萄、みかんなぞありふれた物を食べること。お菓子はすこし面倒でも手製にする。砂糖なしにすればなほ勇ましいが、まづまづこれだけは少し甘くしたい。あの時分の餡はいも餡、かぼちや餡、うづら豆、グリンピース等であつた。いちばん普通にみんなが食べたのは薯のきんつば、かぼちやの小倉どほし(小豆がはいらない小倉といふのも奇妙であるけれど)これは黄いろくて見る目に美しかつた。グリンピースを餡に入れた蒸饅頭。小豆にうづら豆も交ぜた蒸ようかん等々であつた。ピーナツ、乾柿、梅干砂糖漬、黒砂糖のあめ。こんな物はどこともなく遠くの方からそうつと運ばれた物。さてこんな事ばかり書いてゐるとひどくひもじさうであるけれど、六年も七年もまづい物ばかり食べてゐたあの時分はみんながひもじいとは知らずに、ただ、物ほしかつたのである。その物欲しさのためには、籠をさげ袋をしよひ、みんなが山坂を歩いてゐたのだつた。その不自由だつた日を記念し、今を感謝し、将来への祈りをこめて、一つの記念日をつくりたい。



底本:「燈火節」月曜社
   2004(平成16)年11月30日第1刷発行
底本の親本:「燈火節」暮しの手帖社
   1953(昭和28)年6月
入力:竹内美佐子
校正:林 幸雄
2009年8月17日作成
青空文庫作成ファイル:
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