「旦那。わかりました。御婦人とお二人づれ……。」
「さうだよ。今夜ぢやない。明日《あした》の午後《ひるすぎ》でいゝんだがね。」
「旦那。承知しました。お連込ならお誂向きと云ふ処が御在ます。」
「さうか。」
「お好焼《このみやき》をする家《うち》で御在ます。お婆さんと十二三になる小娘が一人、外には誰も居りません。」
「さうか。」
「三畳敷のお座敷が二間か三間ございますが、二階へお上りになると、床の間つきで、蒲団ぐらい敷かれるお座敷があります。」
「うむ。さうか。此処から遠いかね。」
「直ぐそこで御在ます。よろしければ御案内いたしませう。」
「何といふ家だか、名前も教へてくれないか。」と友田はそれとなくあたりに気を配りながら、百円札一枚を外套のかくしから取出して男に手渡しをした。
「旦那。すみません。表の店口は硝子戸を明けて這入るんで御在ますが、裏へ廻ると路次ですから誰にも知れッこは御在ません。」と小声に説明しながら、其男は先に立つて大通を向側へ越し、並んでゐる商店の間の小道に案内した。

 翌日《あくるひ》の日曜日、友田は約束した時間に浅草橋駅の改札口まで出かけ、半《なかば》はどうかと
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