、折々《をり/\》西洋の漫画に見るやうな一種の趣味に照《てら》して、此後《このご》とも案外長く或《ある》一派の詩人を悦《よろこ》ばす事が出来るかも知れぬ。木下杢太郎《きのしたもくたろう》北原白秋《きたはらはくしう》諸家の或時期の詩篇には築地の旧居留地から月島永代橋《つきしまえいたいばし》あたりの生活及び其の風景によつて感興を発したらしく思はれるものが尠《すくな》くなかつた。全く石川島《いしかはじま》の工場を後《うしろ》にして幾艘となく帆柱を連ねて碇泊するさま/″\な日本風の荷船や西洋形の帆前船《ほまへせん》を見ればおのづと特種の詩情が催《もよほ》される。私は永代橋《えいたいばし》を渡る時活動する此の河口《かはぐち》の光景に接するやドオデヱがセヱン河を往復する荷船の生活を描《ゑが》いた可憐なる彼《か》の「ラ・ニベルネヱズ」の一小篇を思出《おもひだ》すのである、今日《こんにち》の永代橋には最早《もは》や辰巳《たつみ》の昔を回想せしむべき何物もない。さるが故に、私は永代橋《えいたいばし》の鉄橋をば却《かへつ》てかの吾妻橋《あづまばし》や両国橋《りやうごくばし》の如くに醜《みに》くいとは思はな
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