者のはなしは七《しち》くどくして欠伸《あくび》の種となり江戸児《えどっこ》の早口は話の前後多くは顛倒《てんとう》してその意を得がたし。談話の善悪上品下品|下手《へた》上手《じょうず》はその人にあり。学ぶも得やすからず。小説の道またかくの如きか。
一 人|口《くち》あれば語る。人|情《じょう》あれば文をつくる。春|来《きた》つて花開き鳥歌ふに同じ。皆自然の事なり。これを究《きわ》むるの道今これを審美学《しんびがく》といふ。森先生が『審美綱領』『審美新説』を熟読せば事足るべし。仏蘭西《フランス》人ギヨオが学説また既に訳著あり。学者の説は皆聴くべし。月刊の文学雑誌新聞紙|等《とう》に掲載せらるる小説家また批評家の文芸論は悉《ことごと》く排斥して可なり。その何が故なるやを問ふなかれ。唯|蛇蝎《だかつ》の如く忌《い》み恐れよかし。
一 小説をかかんと志すものにおのづから二種の別あるが如し。その一は十七、八歳まだ中学に通ふ頃世に流布する小説を読み行く中《うち》自分もいつか小説かいて見たくなりて筆を執り初め、次第に興を得やがて学業の進むにつれ遂に確乎としてこの道に志すに至るもの。その二は既に高等専門
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