ん。
一、余先頃少し入用の事ありて文学及娯楽の雑誌の各第一号だけを蒐集せんと欲し出入の古本屋にも注文し自身にも尋ね歩きしが明治十年前後の魯文珍報、団々珍聞、花月新誌、自惚草紙、新小説などは容易に購ひ得たりしがそれより以後に及びて博文館創業当初の日本之少年未だに見当らず。鏡花宙外等の発行せし新著月刊、透谷孤蝶等の文学界も遂に手に入らず。上野の図書館には定めて保存されてある事ならんとは思へど不便にて且つ不愉快なれば猶行かず。
一、書林組合の古書展覧会にて毎度記者のお目にかゝる方々は徳富蘇峯先生幸田成友先生水谷不倒先生松の屋文庫の御主人達なり。岡鬼太郎先生はいつも浄瑠璃本を集め給へり。市川左団次丈も名代の古書通にて展覧会にては随一のお客様なりといふ。芸人衆にては六郷新左衛門杵屋勝四郎の二人演劇音曲に関する古書已に珍しきもの多く蔵せる由聞きぬ。銀座天金の旦那池田氏も古書珍本の蒐集を第一の娯しみにせらるゝ方なりといふ。
一、右思ひつきたる事を筆にまかせ記せしに過ぎず遣漏誤聞もとより多かるべし、大方諸彦の御示教をまつものなり。



底本:「日本の名随筆 別巻12 古書」作品社
   1992(平
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