からとなく集つて来た、そして低い空をきやんきやん鳴きながら飛びまはつた。その下で古川町の子供等が鯡を盗んだ。
 日曜で好い天気であつた、風が相変らず冷たかつたが、柳小路の奥の土藏が三つ額をあつめてゐる空地は、雪を吸ひこんだ新しい土がぽかついて、いいにほひがしてゐた。
 子供等は一人もしくじらなかつた。前掛の中にそれぞれ四疋の鯡をしのばせて帰つて来た。そこで空き地に遊んでゐた鳩を追ひ拂つて、そこへ藁莚を敷いて皆が坐ることにした。
 三郎といふ女のやうにきれいな子が自家の店棚から清酒の四合壜を一本盗んで来た。それから廻船附船屋の吉太郎が、銅貨箱から盗んで、赤い下帯へかくしておいた二銭銅貨で、豆腐と葱を買つた、醤油や、七輪や鍋は空地に一番近い豊公の家から持ち運んで来た。」
[#ここで字下げ終わり]
 これも金子洋文氏の『鴎』という短篇の一節で、ここには、土崎港辺の海岸の地方色が、判然《はっきり》と出ています。

 約束の三十分が参りましたから、私の「文学に現れたる東北地方の地方色」は、これぐらいにいたして置きます。
[#地から2字上げ]――昭和七年(一九三二年)八月二十八日放送――



底本:「佐左木俊郎選集」英宝社
   1984(昭和59)年4月14日初版発行
初出「文学に現れたる東北地方の地方色」仙台放送局
   1932(昭和7)年8月28午後6時30分〜午後7時
入力:田中敬三
校正:林 幸雄
2009年3月28日作成
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