指と指環
佐左木俊郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)頤《あご》を
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)五十|間《けん》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)眼を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》った
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銀座裏のカッフェ・クジャクの内部はまだ客脚が少なく、閑散を極めていた。
彼は、焦茶色の外套の襟で頤《あご》を隠して、鳶色《とびいろ》のソフトを眼深《まぶか》に引き下げていた。そして、室の中を一渡り見渡してから、彼は隅のテーブルへ行って身体《からだ》を投げ出した。
「いらっしゃいまし。何になさいますか?」
すぐと女給が寄って来て言った。
「うむ。何にしようかな?……」
彼は言いながら女給の手の指を視詰《みつ》めた。蒼々《あおあお》しく痩せた細い魅力の無い指だった。
「まあ、なんでもいいよ。」
「でも……」
鉛筆で伝票を敲《たた》きながら女給は微笑んだ。
「じゃ、カクテルをもらおう。」
彼はテーブルの外に両
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