が、先ず、ここらあたりから調査の歩を進めて行ったら、何とかものになるのじゃないかね。では、これで僕は失敬するが、この特種、二木検事の談として、今日の夕刊に掲載していいだろうな」
「き、君、そりゃアちょっと待ってくれないかな」
二木検事は再びみじめな顔つきをした。
その同じ頃、雑誌記者の津村は、自分のアパートのベッドの上に、ネクタイを外してひっくり返っていた。
編輯長の命令で、陸軍大臣の談話をとるために、この三四日、足手|摺古木《すりこぎ》に追っかけまわして、やっとつかまえることが出来て、吻《ほ》っとしているところだった。
吻《ほ》っとして見ると、再び、探偵作家の星田代二のことが思い出された。愈々《いよいよ》検事局に廻されて、今日は、検事の第一回訊問の行われる日だ。あれだけ証拠の数々を突きつけられて、逃れる道があるのだろうか。サイカク――ロククウ、西鶴――六九……種に苦しんだ活動屋の思い出……洋装の女――どこかで見たような女だが……村井はどうしたろう――あれから自宅へも社へも寄り附かんというが……あっ、そうだっ!
津村は突然おどり上った。大急ぎで、ネクタイを結び直した。――なんだ、こんなことか、どうしてこんな簡単なことに気がつかなかったろう。
彼は大急ぎで玄関まで飛び出した。が、ふと思いついて、アパートの電話室に飛び込んだ。そして、自分の勤めている雑誌社を呼び出して、その雑誌の、映画に関する記事を専門に担当している寺尾という記者を呼び出した。
さいわい寺尾は在社中だった。津村は、今すぐ、社に出かけて行くから、外出しないで待っていてくれるように、とたのんで、アパートの前から円タクを拾った。
「何だね、ばかにあわてて」
寺尾は、手持無沙汰に津村を待っていた。
「君、スチールを見せてくれ。女優のスチールだ」
「スチールと云ったって、沢山あるんだから。誰の写真を探すのかい?」
「それが分ってるくらいなら……」
「すこし変だぜ」
と、云いながら、寺尾は一抱えのスチールを戸棚から取出した。
ペラペラとめくって行くと、五十何枚目かに、たずぬる写真はあった。――たしかに、あの洋装の女と同一人だ。
「これだっ! これ、これは何という女優かね?」
「三映キネマの如月真弓《きさらぎまゆみ》という女優だよ。今、やっと売り出しかかっている女優なんだ。そら、いつか、君と観に
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