って職を与える処は無いのだ。真面目《まじめ》に働くと言っても幽霊の言葉を信ずる者は一人もいない。
愈々《いよいよ》豚殺しにならなければならない運命が自分に迫っているのだ……と彼は思った。土工になるか人夫になるか車力《しゃりき》になるか、それとも心の眼を瞑《つぶ》って豚を屠るか、総《すべ》ては内心の争闘の結果に任《まか》せようと心の中に呟きながら、彼は首の無い蜻蛉を持ったまままた静かに歩き出した。
哀れ首を失った蜻蛉よ! ……と、彼は池のほとりに来ると、その蜻蛉の屍を池の水の上に落として、就職難に苦しめられている哀れな自分の現在を考えながら、静かに、元気なく帰途を歩いていた。
[#地から5字上げ]――大正十三年(一九二四年)六月五日執筆、
[#地から2字上げ]『文章倶楽部』に投稿――
底本:「佐左木俊郎選集」英宝社
1984(昭和59)年4月14日初版
入力:大野晋
校正:しず
1999年9月16日公開
2005年12月21日修正
青空文庫作成ファイル:
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