正勝もあんまりだわ!)
紀久子はそう心の中に呟《つぶや》きながらも、しかしなにも言うことはできなかった。彼女は唇を噛《か》みながら、憎悪の目をもってじっと正勝の後姿を見送った。そして、正勝の姿が物陰に消えてから、紀久子は急所の重苦しい痛みに悩んでいる敬二郎を静かに部屋の中へ労《いたわ》り入れた。
2
紀久子はいつまでも黙りつづけた。
(許してください。敬さん! わたしが悪いんです。許してください。わたしがあなただけを愛しているってことを、いまは言うことができないんです。許してください)
紀久子はそう心の中に呟きながら、黙りつづけていた。
窓の外は暗鬱な曇天がしだいに暗く灰色を帯びて、ストーブが真っ赤に焼けてきた。真っ赤なストーブを前にして、敬二郎も唇を噛み締めながら言葉を切った。重苦しい沈黙が物哀《ものがな》しい空気を孕《はら》んで、二人の間へ割り込んできた。
「ぼくは紀久ちゃんの本当の気持ちを知りたいのだ。ぼくは紀久ちゃんの愛を失うくらいなら……」
「敬さん!」
紀久子はハンカチで目を押さえて咽《むせ》びだした。
「ぼくは本当に、紀久ちゃんの愛を失うくらい
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