まよりはきっとよくなるから。爺さん! 一杯まあ飲め」
正勝はしだいに酔いが回ってきて、爺のほうへぐっと盃《さかずき》を突きつけながら叫ぶような高声で言うのだった。
「これはこれは……」
爺は微笑を崩して盃を受けながら、正勝を煽《あお》りだした。
「そんな風にしてくれりゃあ、村にとっちゃ神さまのようなもんだ。村の人たちのためにでも、ぜひともお婿さんになってもらいてえもんだなあ。村の人たちがよくなりゃあ、おれのほうもすぐよくなるのだし、そりゃあぜひとも……」
「紀久ちゃんの気持ちを、どうかして敬二郎の奴から裂いて……」
その時、入り口の戸が開いて、不意に敬二郎が入ってきた。正勝は急に口を噤《つぐ》んだ。そして、正勝と爺とは顔を見合わせた。
「正勝くんも来てるのか?」
敬二郎は鼻であしらうようにしながら、正勝と向き合いに、炉端の腰掛けへ腰を下ろした。
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第六章
1
片隅の壁に造りつけられてある土間のストーブには、薪《まき》がぴちぴちと跳ねながら真っ赤に燃えていた。敬二郎はストーブのほうへ長靴の両足を伸ばして煙草《たばこ》をふかしながら、次の言
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