葉を躊躇《ちゅうちょ》した。平吾と常三と松吉との三人はストーブに手をかざして、重い沈黙の中に敬二郎の言葉を待った。しかし、敬二郎は煙草を燻《くゆ》らしてはただじっと唇を噛《か》み締めるだけだった。
「とにかく、正勝の野郎は旦那《だんな》が亡くなってからってもの、生意気になってきたことだけは確かだ」
平吾が両手を擦り合わせながら、思い出したように言った。
「それなら本当だ」
松吉が顔を上げて、叫ぶように言った。
「そればかりじゃねえ、あの野郎はなにも仕事をしねえで遊んでばかりいるぞ。そして、旦那の長靴を履いたり、旦那の鞭《むち》を持ち出したり、勝手なことばかりしていやがるよ」
「正勝くんとしちゃ、それぐらいのこと、なんでもないことなんだ」
敬二郎は三人の者が正勝に反感を抱いているのを知って、急に勢いを得てきた。
「なにしろ、正勝くんは大変なことを企《たくら》んでるのだからなあ。実はそれで、きみたち三人に相談してみようと思ったわけなんだがね。しかし、これはほかの人たちにはだれにも知らせたくないことなんだ。ぼくはきみたち三人にだけ打ち明けて、ほかの人たちには絶対秘密にしておきたいと思うんだ」
敬二郎はそこまで言って、言葉を切った。そこへ婆《ばあ》やが紅茶を運んできた。紅茶を啜《すす》りながらふたたび沈黙が続きだした。
「それで、正勝の野郎はどんなことを企んでるのかね?」
しばらくしてから松吉はそう言って、煙管《きせる》に煙草を詰めた。
「正勝くんはこの森谷家の財産を、自分のものにしようとしているのだよ。他人《ひと》から聞いた話だけれど、どうもそうらしい気振りがぼくにも見えるんでね。それできみたちに相談してみるわけなんだよ」
「あの野郎なら、それぐらいのことは企みかねないなあ」
平吾が勢い込んで言った。
「それで、きみたちはどう思うかね」
「どうもこうもねえことじゃありませんがなあ。正勝の野郎をいまのうちに、この牧場から追い出してしめえばいいんですよ。だれがなんと言ったって、いまのところあなたはこの牧場の主人《あるじ》なのだから、あなたがあの野郎を追い出す分にゃあだれも文句はねえはずだ」
「しかし、追い出すといっても、簡単に出ていく男じゃないからなあ」
「あなたがびしびしとやりゃあ、そんなことなんでもねえじゃありませんか。造作のねえことですよ。面倒なときゃあ、正
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