たまえ。たとえばぼくがこうして……」
吉本はそう言いながら、重い磁鉄の灰皿を持って籐椅子から腰を上げた。
「……この灰皿はばかに重いね。……いいかね? ぼくがこの灰皿をこうして……」
吉本はその灰皿を高く持ち上げながら言った。
「こうして、ぼくが、いいかね?」
「おい! きみっ!」
彼は永峯の額を目がけてその灰皿を打ち下ろしながら叫んだ。
「こうしてやるのさ!」
「あっ!」
永峯はそこへどっかりと倒れた。彼はその頑丈な磁鉄の灰皿のために、前額部を完全に割り砕かれていた。
「吉本さん! あなたは……あなたは……」
雅子は恐怖に顫《ふる》えながら叫んだ。
「雅子さん! あなたは、あなたのいちばんに愛していた人を殺したんですね。あなたは永峯を殺してしまったんですね」
「まあ! 自分が殺しておいて、何を言うんです!」
「世の中の偽映鏡がどんな風に映そうと、雅子さんが自分のいちばんに愛していた男を殺したことに違いないはずだ」
「まあ! この人は!」
「雅子さんはぼくのいちばんに愛していた女だ。永峯はぼくのいちばんに愛していた男だ。その永峯が殺されてしまったのだ。……自分がいちばんに愛し
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